2013年10月24日木曜日

第72回脳神経外科学会学術総会参加報告

10/16発表してきました。

演題は、”頭蓋内血行再建術(EC-IC bypass)の治療成績 ”です。内容は、頭蓋内主幹動脈に高度狭窄ないし閉塞があり、血行力学的虚血状態による脳虚血発作を起こした患者さんに対する手術(EC-IC バイパス, 浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)の治療成績についての検討です。

バイパス手術が脳梗塞予防に有効かどうかについては、従来より意見が分かれ、欧米からは内科治療に勝ることはなかった、との報告がある一方、日本ではJapanese EC-IC bypass trial (JET) studyという研究により、血行力学的虚血状態にある患者さんに症例を限定することで内科治療に対し外科治療が有用性があることが示されました(残念ながらまだ論文としてはpublishされてはいません)。

 今回の我々の結果は、術後の脳虚血発作発症率は1.73%/人年に抑えることができており、従来の報告での同様な患者群に対する内科治療の脳梗塞発症率(5.3%/人年)と比較して良好な成績だと思われました。良い結果が得られた理由として、周術期にmajor strokeの合併がなかったことが挙げられます。
 また、術後に脳梗塞発作を来さなくてもADL低下をきたしている例があり、これらはいずれも術前より認知機能障害や悪性腫瘍を合併し、その進行や認知症に起因する合併症をきたしたことが原因でした。特にADLが完全に自立できない程度まで認知機能が低下している場合の適応については慎重であるべきだろうと考えられました。

 内科治療の成績も非常に優秀ですので、術後合併症が少しでも出てしまうとこれを上回ることが困難となり、脳外科医の立場からは厳しいな、という印象があります。ただ、手術で良くなる症例も間違いなく経験しますので、そのような患者さんをrescueすべくこれからも1例1例着実に実績を積み重ねていきたいと思いました。
 
 座長の先生からは、欧米と日本の違いは周術期合併症の少なさに集約され、その理由として日本では脳外科医自身がきめ細やかな術後管理をしていることに尽きるのでは、というコメントがありました。


脳神経外科 迫口 哲彦

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